緑内障は目と脳を繋ぐパーツである視神経の病気で、視神経の本数が減っていくことで徐々に視野が欠け、最終的には視力が低下していく病気です。現在の医療では視神経の本数を増やす方法が存在しないため、治ることはありません。そのため、少しでも視神経が減るスピードを抑えて、現在の見え方を1日でも長く維持するということが治療の目的です。目の硬さ(眼圧)を下げると視神経の減るスピードが遅くなることが分かっており、現在の緑内障治療の目標は、ほぼ全てが「眼圧を下げる」ことにあります。緑内障の種類(病型)によって治療法が異なるため、どの病型であるのかを見分けることが極めて重要です。
眼圧を下げる方法の基本は目薬です。目薬は多くの場合は1剤から始めることになりますが、眼圧の下がり具合や視野の進行の程度によって目薬を変更したり、追加したりしていく必要があります。最近では配合点眼といって1つの目薬に複数の薬剤が含まれた目薬が多く発売されています。配合点眼を組み合わせることによって、少ない本数で大きく眼圧を下げる効果が期待できます。
しかしながら、目薬で眼圧を十分に下げられない場合や眼圧が下がっていても視野の悪くなるスピードを抑えられない場合には手術を検討する必要があります。
緑内障手術は眼圧を下降させるために行う手術ですが、緑内障の進行の程度や緑内障の種類によって、適切な手術が異なります。具体的には、眼圧を下げる効果が高い手術程、合併症の可能性も高くなりますので、初期の緑内障ではローリスクローリターンの手術を、進行した緑内障ではハイリスクハイリターンの手術を選択することになります。但し、術前の眼圧や緑内障の種類によってはこの限りではありません。以下に当院で実施可能な緑内障手術について、紹介します。
閉塞隅角緑内障とその予備軍である原発閉塞隅角症が適応になります。眼圧を下げる効果は低いですが、隅角という房水の出口をレーザーで広げることによって、今後の眼圧の上昇を防ぐことが主な目的です。また急性緑内障発作という突然眼圧が上昇する病気の発症を予防することも目的になります。隅角検査を行い、閉塞隅角と診断された場合に適応になります。
iStent inject W®という金属性のステントを眼の中の線維柱帯という房水の排水溝の出口に埋め込む手術です。保険診療上、現在は白内障手術と同時に行うことしか認められていません(今後は単独でも手術が実施可能になる見込みです)。点眼薬1本分くらいの眼圧下降効果があります。眼圧を下げる効果が強い訳ではないですが、合併症が少なく、白内障手術でメスを入れた目に同時に行うことが出来るのがメリットです。
線維柱帯という房水の排水溝の出口を切り開くことにより、房水の流れを改善して眼圧を下げる手術です。房水の自然な流れで眼圧を下げることが出来るため比較的合併症は少ないですが、眼圧を下げる効果は限定的で、平均すると期待できる術後の眼圧は18 mmHg前後です。術後は切開した線維柱帯から必ず出血をするため、一時的には視力が低下します。通常は1週間ほどで視力が回復します。出血や炎症の影響で一過性に眼圧が急上昇することがあり、この際には点眼や内服で眼圧を下げる必要があります。
房水の出口である線維柱帯を切り取ることによって、強制的に眼内の房水を眼外に排出させます。切除部は強膜で蓋を作り、結膜で覆うことによって、白目の部分に房水の溜まる溜め池を作る手術です。緑内障の手術の中では最も眼圧が下がる手術で、10mmHg台前半まで下がることが期待できます。しかしながら、合併症が多く、術直後には眼圧調整のためのこまめなメンテナンスが必要になります。最も重篤な合併症は感染症で、手術後5年間の間で約2%が発症し、そのうち半分は失明すると報告されています。また、術後に乱視などの影響で視力が低下してしまうこともあります。緑内障手術の中では最もハイリスクハイリターンな手術であると言えます。
上記の線維柱帯切除術のように房水を眼外に排出させる手術ですが、線維柱帯を切り取る代わりに、プリザーフロ®という細いチューブを眼内に挿入します。線維柱帯切除術よりも手術が簡易で、術後のメンテナンスも少なくて済みます。また術後の合併症の頻度も少ないと報告されています。但し、術後の眼圧を下げる効果は線維柱帯切除術よりは弱く、平均して14mmHg前後とされ、術後に緑内障点眼の再開が必要になる方の割合が多いです。
!!Caution!!
いずれの緑内障手術も一度実施して終わりということではなく、術後には慎重な経過観察が必要で、ほとんどの場合には何らかの緑内障治療の追加が必要になります。通院の自己中断は失明に繋がる危険性があります。かかりつけ医として、皆様の目を緑内障から守っていくために、生涯に渡ってお手伝いをさせて頂きたいと思います。
特に日常生活で気を付けることはありません。例えば、目を使いすぎると緑内障が進行するなどということはありません。長時間頭を下にする、いきむなどの動作は眼圧が上がることがあります。
基本的には目薬を生涯に渡って続ける必要があります。緑内障手術を行うと一時的に目薬が不要になる場合がありますが、術後時間が経つと再度目薬をつける必要が出てくる可能性があります。目薬をつける負担が増えないように配合点眼を活用して、少ない回数で最大の効果が得られるように工夫して処方しています。
術後しばらくは出血などで霞むため見えづらくなり、日常生活が送りにくくなる可能性があります。また、力を入れる動作は再出血のリスクになりますので、術後しばらくは安静にして過ごすことをお勧めしています。当院は日帰り手術で行いますので、術後の生活に不安がある場合には入院可能な施設での手術をお勧めします。ご希望がありましたら、近隣の宿泊先をご紹介することもできますのでご相談ください。